Woolyの音楽科学研究報告
長調性と短調性の
探求①
なぜ、ドレミはこういう形なのか。
音名とハーモニクスから、その構造をたどる。
なぜ、ドレミはこの並びなのか
一般的にメジャースケールは12平均律上で次の値に定義されている。
メジャースケール(12ET)
浮かぶ比にマウスをかざすと音が鳴ります。波形と音量調節は右上にあります。
実用上はこの数値を覚えるわけではなく、楽器の上での各キーでの配置を模様のように記憶したり、またはインターバルや全音半音の間隔を覚えて利用することが多いだろう。
音楽理論を学び始めたとき、私はよく聞きなれたドレミファ…(※英語圏ではC D E F…)の響きが数値的に直線的な周波数(※正確には対数周波数)の並びになっていないことには驚いた。しかもピアノ上ではミとファは隣り合わせの白鍵盤だが、白鍵盤のお隣さんであるにもかかわらずこれは半音間隔なのだ。
私はよく聞きなれたこの音楽的音階に、何らかの科学的に記述されうる単純な構造があると夢想し続けていた。
実際、12平均律定義をメジャースケールの起源だと考える人は少ないだろう。歴史的にも数学者や音楽家が様々な調律を研究してきた後に、あらゆる転調において響きが変わりにくい12平均律上での音楽理論が構築されてきたのだ。
一般には、メジャースケールの起源は周波数の単純な整数比関係にあると言われている。メジャーコードの例は有名で、ドミソの和音の周波数比は
であり、(, , )の比関係にある音高でメジャーコードが実現されるという。
これはコードとしての”メジャー”だが、スケールとしてのメジャーは純正律と呼ばれ、
の分数比の列であると定義されている。しかし私はドレミの起源をこれだとは思っていない。もっと構造的な理由から支持される”純正比”メジャースケールとして私は
--のあたりをミファソファミ~♪と行き来してみてほしい。既存純正律(--)との違いがよく分かると思う
を支持する。これをこのサイト上ではHarmonics Major(H-Major)と呼称する。従来の純正律は、”Just Intonation”Major(JI-Major)と呼ぶ。
同じCから、3つの音律を聴く
| 音律 | 音階のみ | C3を鳴らしながら |
|---|---|---|
| H-Major | ||
| JI-Major | ||
| 12平均律 |
H-Majorが成り立つ理由を追っていくと、人間が相対音感を獲得しうる理由や、音声的な意味での長調性とはなにか、が見えてくる。それをこのサイトではじっくり解説していくつもりである。
高いドと低いドの共通性
人間が音楽として知覚している聴覚現象を語るうえで最初に定義しておかなければいけない重要な前提がある。それは音名原理だ。
音名原理
2の冪(, kは負のものを含む任意の整数)は音名の知覚上無視され得る。換言すれば、人間は倍だけ離れた周波数音高に同質のものを見出すことができ、それを音名と呼ぶ。□
高いドと低いドがあるということである。無視され得ると言っても音高が分からなくなるわけではない、音高が離れていても同質のものを見出すことができるということだ。一般に12平均律に限らない任意の周波数に対してこれが成り立ち、人間が知覚できる音名全体の空間は円環となる。この円環は音楽心理学等では”クロマ”と呼ばれているものに相当するが、今回はそれが言及される範囲とは少し異なる領域の話をするため、また簡単のためにも”音名”と呼称する。
ハーモニクスから奇数系列へ
聴覚原理として次に重要なのが、ハーモニクス(日本では一般的に倍音と呼ばれるが、ここでは英語圏に合わせてハーモニクスと呼称する。)だ。私は次の原理を定義する。
ハーモニクス原理
人間はハーモニクス系列の形にならんだ周波数列をかたまりとして認識することができる。□
1〜16倍。先の音を伸ばしたまま、次の音を加えます。
ハーモニクスを次々に、または同時に鳴らしていった場合、それが同じグループに属する音の系列であることを認識できるということである。つまり単にハーモニクスをハーモニクスとして認識できるということである。そして、音名原理と合わせることで聴覚上の重要な定理が露出する。
奇数ハーモニクス定理
音名原理により、2の冪の関係にあるハーモニクス同士は同じ音名として認識される。その意味で、ハーモニクスの中で音名として独立な部分は奇数ハーモニクスのみになる。□
奇数倍:1・3・…・15。音名:根音を伸ばし、1・3・5・7…を1.4秒間隔でゆっくり追います。
とくに音名としてこのグループに言及する場合、奇数ハーモニクス音名系列と呼称する(単に奇数ハーモニクス系列、奇数系列と呼ぶこともある)。ハーモニーの音名関係的な性質はもっぱらこの系列を利用して語られることとなる。
Harmonics Majorを比で見る
私が提案したメジャースケールを振り返ると、これは奇数ハーモニクス音名系列により構成されていることが分かる。比を書くだけでは分かりづらいと思うので、仮にこれをC Majorだと仮定して記号を割り振ると
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
従来の純正律は
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
である。H-MajorとJI-MajorではFとAの値が異なることが分かる。
ここで2の冪を取り除いてみる。=であるから、H-Majorは
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
と、すべて奇数整数になる。つまり、H-Majorはすべての音名がCの奇数ハーモニクス系列になっている。一方JI-Majorは
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
無視できるのは2の冪だけだから、FとAがCの奇数ハーモニクス系列ではない。しかし単純な整数比であることは確かである。ここで全体をFの値で割ることにより、JI-MajorをF基準のスケールとして見てみる。で割るのだから、全体を3倍すればよい。
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
つまりJIのC MajorはFの奇数ハーモニクス系列となってしまっているのだ。(完全な余談だが、私はこの理由によりリディアンクロマティックセオリーを書いたジョージ・ラッセルはもしかするとメジャースケールがこちらの見方で聞こえていたのかもしれないと想像している)
つまり、ハーモニクス系列を重視する視点からするとHarmonics Majorの方が、根音(“1”に相当する音名)が実際に主音と見なしたい位置(今回の場合はC)に一致するという点から支持されるのだ。
電子ピアノの中には既存純正律を調律として選択できる機能が搭載されているものがあり、私は曲をその調律で演奏しても何か気持ち悪い響きがするなとよく思っていた。今考えるとそれは聴覚的に主音と見なしたい音とハーモニクス的根音が一致していないということだったのだ。
これだけでは納得されない方も多いかもしれない。きっと「そうは言っても、それはお前がHarmonics Majorが上手くいくようにハーモニクス原理を定義したからじゃないか」と思われた方もいるだろう。しかし、なぜハーモニクスを重視するべきなのか、またそれが聴覚的に支持される理由を私は説明することができる。それは結合音についての視点である。
2音を重ねて聴く
結合音とは、例えば実際に鳴っている2つの周波数, (<とする)について
– , +, 2× – …
などという風に周波数に整数係数をつけて計算される周波数の音だ(※ただし、計算結果が0になる場合を除く)。実は人間の耳はこれらの周波数を知覚することができると言われている。それを支持するいくつかの研究が既に存在するし、今実際にここであなたに確かめてもらうことができる。
私の経験上、結合音は音というより”質の違い”として捉えたほうが分かりやすい。これらの音を聞いてもらいたい。1つ目の音と2つ目の音、それぞれの音を単独で鳴らした場合と、同時に鳴らした場合で音の聞こえ方が変わることが分かるだろうか。
私には2つの音が”干渉している”と言う表現がイメージ的に近いし、物理的にも実際の現象に近い表現だと思っている。実はこの2音を同時に鳴らしたときの”震える感じ”や”ざらざら感(人によって表現は違うだろう)”が、耳のなかであるいは脳内の知覚上で(?)生じていると推定される複数の結合音の周波数成分が統合されたものだと私は考える。
結合音も周波数なので、頑張れば音程として知覚することもできる。結合音の中でも – に相当する差音は捉えやすいと思うので、耳の良さに自信がある人は何度も聞き直しながら試してみてほしい。特に今回の音声は音声①をとすると、の位置で音声②の高さを取っている。この場合の差音は
参照用の正弦波。2音の再生には加えていません。
つまり=, 2オクターブ下の、音声①と同じ音名の音として知覚される。重要なのがこれは私の経験上、に相当する周波数の正弦波の音色としては聞こえないということだ。これはまだ仮説だが、おそらく今回の場合に相当する音のハーモニクス、つまり差音のハーモニクスが同時に発生していて正弦波とは異なる”音色”の音として知覚されるのだとおもう(実際に結合音として計算される集合の中に、差音のハーモニクスに相当する部分は含まれている)。本当にハーモニクスが生じているのか、また何次まで発生しているのかは、耳の中でどこまでの結合音が生じているかについて検証した研究が見つからなかったのでよく分からないが、私には差音が弱く三角波に近い音色で鳴っているように感じられる。
差音と同じC2の三角波による参照音です。2音の再生には加えていません。
音色についての言及があったのでついでに述べておくと、これはフーリエ級数に近い話なのだが、ある条件で一定の振幅列が割り当てられたハーモニクスの合成音は複数の音の和音というよりも、一つの質を持った”音色”として知覚されることが知られている。ハーモニクスは”音の形”のようなものを構成することができるのだ。
ハーモニクスが音色を構成できることと、音楽的コードがハーモニクスでできていること(※一般のコードはハーモニクスとは限らないが、例えばずいぶん最初の方で述べたメジャーコードは(,,)つまり音名的には, , の奇数ハーモニクスでできている)は私は根っこでつながっているのではないかと思っている。
構成音への帰還と、系列への帰還
話が少し逸れてしまったが、なぜハーモニクスを重視しなければならないのかということの理由に、結合音が強く関係しているという話だった。
結合音については、一つ重要な注意点がある。先ほど見せた例はすでに述べたように
で、この結果は音名を考えると~だから(“~”を簡易的に、音名が同じである場合の同値性を表すために使う)、ある和音の差音がその和音の構成音自身に帰ってくるという例を示していると言える。これを結合音の構成音への帰還性と仮に呼ぼう。しかし、音名原理に基づいてこの2音のオクターブ関係を変更するとどうなるだろうか?試しにから=を外してみると
これは=×~であるから、構成音への帰還を満たしている。しかし、(~)の場合
これは元の和音の音名に無かった音である。単純に和音に音名原理を適用しようとしてしまうと、構成音自身への帰還性は崩れてしまうのだ。
ではそうすると、結合音と音名原理は相容れないものであり、互いに矛盾する関係性だと言えてしまうのだろうか。実はそうではない。ちょうどこの問題を解決するために、またハーモニクス原理が活躍するのだ。
先ほどの例をよく見てみると、の場合に出てきた音はであるが、これはの奇数ハーモニクス(~)である。つまり、今回の差音の計算は、根音()の奇数ハーモニクスにより構成された和音の結合音が同じ奇数ハーモニクス系列に帰ってきているという意味で閉じているのである。実はこれは一般の結合音について成り立つことが数学的に証明できる。
奇数ハーモニクス音名系列の結合音閉性
奇数ハーモニクス音名系列内の音で生成される任意の和音の結合音の音名は、同じ奇数ハーモニクス音名系列に必ず帰ってくる。□
つまりハーモニクスをかたまりとして、”1つの系列”として人間が認識できるというハーモニクス原理の視点、とくに音名原理を含めた視点から見ると、結合音が実際に鳴っている構成音の音名の外に出てしまったとしてもそれは根音のハーモニクスであることには変わりないから問題がなく、実際の和音と結合音を合わせた全体は、依然、同じハーモニクス系列に属しているということが言えるのだ。
これが私がハーモニクスを重視するべきだと思った理由である。ハーモニクスは、結合音をも自分自身の系列に引き込んでしまうのだ。
結合音閉性の数学的な証明を次節で行う。
結合音閉性の証明
結合音閉性で”同じ系列”と言った理由は、奇数ハーモニクス系列をある基準周波数について考えることができるからである。ドのハーモニクスとファのハーモニクスは、(実はお互いに一致する部分もあるのだが)全体としては違う。そのため別の系列と見なすことができる。そういう風に基準周波数が異なる系列が存在しうる状況の中で、ハーモニクス系列の結合音は、同じ基準のハーモニクス系列に帰ってくるという主張をするのだ。
基準周波数をとするある奇数ハーモニクス音名系列に属する任意の音は
と書ける。ここではオクターブ位置を決めるための2の冪の指数であり、負のものを含む整数である。が奇数であり、はの奇数倍を任意のオクターブ位置に配置したものと考えられる。
するとこの奇数ハーモニクス系列による和音から生じる結合音は
と書ける。が整数係数であり、これは奇数ハーモニクス系列の音(の周波数)に整数係数を付けて計算して得られる結合音の周波数を表す。ここで負の値の周波数には意味がないので絶対値が付けてある。
すると、自体も正の周波数を考えているから
であり、ここでには負の値もあるので絶対値記号の中が整数ではなくなる場合がある。そこでについて今回考えているなかで一番小さいものをA=min とすれば
これで絶対値記号の部分が非負の整数になった。この整数をPとすると、結合音は0の値を考えていないから≠0よりP≠0、よって正の整数であり、
ただし、q は奇数、l は非負整数。
と表せる。すると、
つまり、音名では
つまり結合音はもとの奇数ハーモニクス音名系列に属する。
基準周波数より生成される奇数ハーモニクス音名系列上で生じる任意の結合音は、同じ系列に属するのだ。
音名の座標をつくる
先ほどの証明では分かりやすさのために周波数そのもので計算したが、音名のことを言っているからの奇数ハーモニクス音名系列と、 ×の奇数ハーモニクス音名系列は全く同じものである。それを考えると、奇数ハーモニクス音名系列の”基準”は音名で考えるべきである。そこで少し音名についての話をしよう。
ここで我々が言及している”周波数”を物理周波数と呼ぶことにして記号fで表すと、fは正の実数を考えることになる。すると音名は最も標準的な形としては
で表すことができる。これを音名座標と呼ぶ。2を底とする対数関数で周波数を変換すれば、1オクターブ上がることが+1、下がることが-1に相当することとなり、そういう整数差を無視する(mod 1)ことで純粋に音名としての情報を取り出せる。hの値の範囲自体は[0, 1)で、0と1を同一視していることになる。だから形としては円環である。
はどこを音名座標の原点に取るのかを決める。実用上はfをHzが単位の音声スペクトルの周波数と見なすであろうから、=440Hzと標準的なA4チューニングの周波数に設定すると良い。すると原点は440Hzチューニングの12平均律音名で言うAになり、一般的な12平均律の音名位置は単に
ただし、k は整数。
で計算できる。一番最初に例に挙げた平均律メジャースケールをAについて取れば
Aメジャー:絶対座標 h(A=0)
| A | B | C♯ | D | E | F♯ | G♯ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0000 | 0.1667 | 0.3333 | 0.4167 | 0.5833 | 0.7500 | 0.9167 |
のようになる。Cメジャースケールはこの座標上では
Cメジャー:絶対座標 h(A=0)
| C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.2500 | 0.4167 | 0.5833 | 0.6667 | 0.8333 | 0.0000 | 0.1667 |
のようになるが、これは原点がずれているから違う形に見えるだけである。ここで単純に
と計算すれば原点を音名の位置に持ってきた座標で計算することができる。
Cメジャー:相対座標 u(C=0)
| C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0000 | 0.1667 | 0.3333 | 0.4167 | 0.5833 | 0.7500 | 0.9167 |
キーの違うスケールについての計算がしたい場合は最初にhを固定して、uでグルグル回しながら見ればいいだろう。それか最初から原点にしたい音名を原点にしてしまってもよい。とにかく大事なのは周波数を2を底とする対数軸で見た場合の小数部分として音名が取り出せるということだ。
ちなみに一般のn平均律も単純に
で計算できる。
とりあえず何か絶対的な音名座標を決めておくとして、その上でのある音名基準をとする。kを正の整数とすると音名上でのハーモニクスの位置自体は
で計算できる。そのうち奇数部分のみを抜いた奇数ハーモニクス音名系列はlを正の整数とすると2l – 1が1から始まる奇数であるから
で計算できる。Cを原点とするh上で、=Cのハーモニクスを計算したグラフを下に載せる。
こうしてみると、視覚的にも音名原理の上ではハーモニクスの中で奇数部分が差を生むことが分かるだろう。また例えばCメジャーコードが奇数音名系列の1, 3, 5の位置にちょうど近いことが分かるだろう。先に予告していた通り、H-Majorもこの系列上にいる。点線で強調するとこのようになっている
H-Majorと平均律メジャースケールの位置がどれくらい差があるのかがわかりやすいようにセント値の差も併記した。あわせて確認してみてほしい。
Cの中にGの系列がある
第6節では物理周波数を基準として閉性を証明したが、 × はすべて同じ音名を持つ。したがってこの結果は、「同じ音名基準の奇数ハーモニクス音名系列が結合音に対して閉じている」と言い換えることができる。
奇数ハーモニクス音名系列の結合音閉性(音名について)
ある音名基準での奇数ハーモニクス音名系列内の音で生成される任意の和音の結合音の音名は、同じ音名基準の奇数ハーモニクス音名系列に必ず帰ってくる。□
すると復習になるがCのHarmonics Majorはちょうど
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
であったから、スケールの構成音がすべてCの奇数ハーモニクス音名系列となっているため、このスケール上で構成される和音から生じる結合音もすべて同じCのハーモニクス系列上に帰ってくるのだ。もちろんH-MajorのをC以外の音名Xに変えれば、そのX上の系列に結合音が帰ってくるスケールとなる。音名Xの取り方の自由性の空間は音名が円環なのでこれも円環になっている。これが私がイメージする原始的な調性の円環である(もっと高度な円環として五度圏のようなものもあり得るだろうが、五度圏より前に先にこちらが存在している)。
Harmonics Majorについて少し補足がある、ここでは分かりやすさのためキー(=音名基準)をCに固定して話す。既にお気づきだと思われるが、H-MajorはCの奇数系列になっていると言っても、番号が飛んでいる。番号順に並べると
| 音名 | C | G | E | D | B | F | A |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
となっている。これは実は単に、平均律のメジャースケールの音程に近づけるために番号を飛ばしたわけではない。もっと構造的な理由がある。つまり、ここでGに相当する3で全体を割ってみると
| 音名 | C | G | E | D | B | F | A |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
整数のもののみを抜き出せば
| 音名 | G | D | B | F | A |
|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
と、G-D-B-F-AがGの連続的な奇数ハーモニクス系列となっているのだ。CメジャーにおいてGはCの”ドミナント”である。つまりこれはハーモニクス的に補強されたドミナント・コードなのだ。
結合音閉性により、これらの音で作られる和音の結合音はGの奇数ハーモニクス系列に帰ってくる。すると、あれ?これはCのH-Majorじゃなかったのか?と思う人がいるかもしれないが、つまり
ということだ。Gの奇数系列に帰ってくるということは、同時にCの奇数系列からもはみ出していないということである。そしてちょうどGが
| 音名 | C | G |
|---|---|---|
| 比 |
でCの右隣りの奇数ハーモニクスであることから、CのH-Majorスケールは、Cの奇数ハーモニクス系列の根音のCと、その次の音であるGの両方をハーモニクス的に強調するような音でできたスケールとなっている。音楽理論風には、トニックとドミナントの性格を強調・露出させたスケールなのだ。
ちなみに、Gの場合は9までの奇数ハーモニクスがあるが、Cについては1, 3, 5, 9と、7が抜けている。そこで7を追加すると、ちょうど
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B♭ | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
| 音名 | C | D | E | F | G | A | B♭ | B |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
つまりⅦ♭の位置に来るのだ。これは音楽理論的には自然7度と呼ばれている純正音程だが、奇数ハーモニクスとしてもちょうど”7”だ。音階を聞くとこのようになっている。
なんだかすごく聞きなじみのある”上昇感”ではないだろうか。このCの奇数系列”7”も追加したHarmonics Majorを”7を含むHarmonics Major”、またはこれ自体を正式なHarmonics Majorと呼ぶ。(Harmonics Majorにとって、”7”は必要に応じて取る音というくらいの距離感です。)
Cの”7を含むHarmonics Major”はCとGの両方の”9”までの奇数系列を含む。
| 音名 | C | G | E | B♭ | D |
|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
| 音名 | G | D | B | F | A |
|---|---|---|---|---|---|
| 比 |
このスケールでの”ドミナント進行”を全ハーモニクスで鳴らすとこのようになる。
下側のGを基準に。各系列の1・3・5・7は同じオクターブ、9は1つ上。
こういう雰囲気の調性なのだ。私は従来の純正律よりも、このトニック-ドミナントという2性格に音の所属を分けるHarmonics Majorの方を推しているというわけだ。もちろん、分けると言っても全体としては1つの系列(Cの系列)の内部に属しているわけで、その中の根音(”1”)のお隣さんのハーモニクス(“3”)を補強した”上のレイヤー”がある、という意味だ。
無作為に単純に奇数27番までのハーモニクスを取っただけでは、Cメジャースケールには本質的には”関係がない”音(しかしこれらの番号も例えば3のさらに隣りに相当する”5”からの奇数ハーモニクスを取っていけば多くが取得されていく。その次は”7”の奇数ハーモニクス…という風に埋まっていくのだから、より高次の階層と見るべきではないかとも考えられる。この点については今回は深くは追究しないが、とにかく骨格や根っこを取り出す場合の話である)が大量に紛れ込んでしまう。ハーモニクスをハーモニクスで補強することで、音階の長調性(長調性とは、私にとってはハーモニクス性のことなのだ)の骨格が露出するというのが大事な視点だ。試しに単純に27番までの奇数ハーモニクスをオクターブ内に収めて昇順に並べたスケールの音声も下に貼っておく。これを聞けば、ハーモニクスのハーモニクスを取ることの重要性がさらにわかりやすくなるだろう。
まとめ・短調性への入り口
どうだったでしょうか。人間の耳の中で生まれる”結合音”と、それについて整合的な系列としての奇数ハーモニクス系列。そして、その奇数ハーモニクスの中の”さいしょのほう(1と3の奇数ハーモニクス)”に、現代音楽で利用されているメジャースケールに酷似した音律が眠っているということをここまでで明らかにできたと思う。
また、既存の純正律については、全体を包含する奇数ハーモニクス系列の基準がF(キーに対するⅣの位置)になってしまうという意味で、実際に感覚的に主音にしたい位置と結合音が整列する系列がずれてしまうという意味で不便だ、と主張する。
さて、ハーモニクスがドレミの起源っぽい、ということが分かったところで、すると音楽の何が変わるだろうか。科学的には、私は人間の調性知覚、もっと簡単にはなぜ人間は曲の雰囲気を明るく感じたり、暗く感じたりするのだろうか、それはどういう仕組みになっているのだろうか、という方向性の研究についての手がかりになると思う。音楽のハーモニクス的な側面の研究が進むことがより良い音楽の数学的な表現空間の構築に貢献し、色彩科学風の、人間が知覚することのできる音の”色”の全体のような理論を作ることができるのではないかと私は夢想している。
音楽そのものの文化としては、古くから純正な音程を表現するための方法が模索され続けてきた。特に電子楽器を用いない生楽器を扱う世界では今でも純正音程を気にしながら演奏・練習を行っていると聞いたことがあるが、それならばハーモニクスについての知識は実用的に必要とされる内容だと思う。しかし実際のところ、そういった世界では純正律の存在は”そういう、平均律から離れたもっときれいなハーモニーの世界があり得るんだな”と言う程度の認識で済ませていて、チューナーを用いた厳密な数値計算をするわけではなく、指導者やアーティストの高度な感覚や感性に従ってやり繰りしているところが多いと思う。私はそれを否定する気はない、というより、逆にすごく健全な態度だと思う(何しろ私は既存の純正律よりもHarmonics Majorを推しているわけで、もしH-Majorを”真”とするならば、通常の電子ピアノなどの調律設定に既存の純正律が利用されていることは不都合であり、どっちにしろ無理にチューナーに合わせず、そのままの人間のハーモニクス的音感に頼って演奏してもらった方が良いことになるのだ。それに転調の問題もあるだろう)。私が求めているのは音楽の数学的な解をぴしぴしと決めつけていくことではなく、音楽的な表現の世界にどのような数学的な地図を広げることができるかの探求であるのだから。
それかまたは実際に、電子音楽の領域で今回の研究結果を利用することができる。平均律はピアノなどの固定された調律が必要な楽器であらゆる転調に耐えうるハーモニーの響きを実現するために設計された調律と考えられる節があるが、電子楽器やDTMソフトの上では、必要なソフトを用意・あるいは設計すれば自由に主音位置(キー)を動かしながら、各旋律やコードを純正化することができ、文脈に応じて純正律を使い分けることができる。今は微分音や任意分割の平均律が流行っているらしいが、微分音を経由しなくても直接分数比の音程は指定できるのだから、もっと直接純正律を扱って作曲する人が増えてもいいのになと思っている。そういった作曲の試みがさらに純正律・ハーモニクスの性格を明らかにして、人間の音楽感性の探求を深めてくれるのではないだろうか。
また、ついでに言っておくと私は現代の平均律で作曲された楽曲たちも、多くは作者が自身のハーモニクス的感性を平均律上に投影して作ったものなのではないかと考えている。奇数ハーモニクスと平均律の音程は一致しないし、ピタゴラス音律のように純正完全五度を何度も取っていく(×3の繰り返し)と無限巡回してしまうが、もしハーモニクス世界を疑似的に近似して、巡回しない、転調について閉じた世界にしたのが平均律だとすると、そういう疑似的にある程度の調性感・ハーモニクス感を再現できる平均律という調律の上でどのような運動ができるか。私は平均律での作曲をそういう視点でみている。
今回の記事のタイトルは”長調性と短調性の探求”であった。しかしまだ私は”短調性”の部分を述べていない。短調の基本的なコード、つまりマイナーコードは
の比関係の音程で構成される和音だと言われていて、私もこれを肯定する。実はこの数値は、で全体を割ればわかることだが
すなわち音名的には
つまり、奇数の逆数の列により構成されているのだ。これはサブハーモニクス(下方倍音)と呼ばれているものだ。特に奇数のサブハーモニクスである。
音楽の短調性は実はサブハーモニクスを追うことで露出する。そしてそれがハーモニクスの理論とかみ合って、人間が知覚することのできる多彩な調性表現の一般的な世界へと広がっていくのだ。
次回はその詳細について語っていこうと思う。
Wooly